るんぺんパリ【RunPenParis】

詩・詩集・ことばをデザイン・アート・写真 るんぺんパリ【RunPenParis】 以前は「Kマーホ」の名で活動(1999-2002)、詩集「トイレの閃き」「テレビジョン」「おしりとサドルが あいますか」「マガサス星人」「コールサック」「眠立体」6冊の詩集を出版して活動休止。 令和元年(2019)に、「るんぺんパリ【RunPenParis】」の名で活動を再開。 三重県伊賀市(旧上野市)出身 静岡県在住

無人駅と たれその森

 夏の入道雲が、どうやって秋の綺麗に散らばった雲になるのかなんて考えても無いのに、あの頃はあの無人駅とたれその森の間の道を何度も何度も往復してはランドセルを揺らしながら、いろいろな事を考えては忘れてを繰り返してた。

 同じ風景に飽き飽きしてたけど、たれその森はいつまでも不思議な森で、近づきたいけど、長くいるといけないような、かと言って怖い森とかじゃなく、なんとなく不思議な森だった。

 もしも未来とか過去とかにタイムスリップできる場所はどこって聞かれたら、たれその森を浮かべる。そんな森の近くに無人駅の市部駅があった、その近くにこの駅の利用者の自転車が退屈そうに転がってた。

 今よりも自転車は自由な乗り物で、自分の力でどこにでも行ける最高のパートナーだった。遠くの友達の家までいつでも行けるし、好きな時に好きな所へ行ける自転車は飽き飽きした敷地から僕たちを解放へ導いてくれる。

 上野の街にはお店がたくさんある、ゲームセンターもある、人が車がいっぱいで、お金が無い僕らは、この自転車で街を目指して計画を立てた。道路を通ると学校の先生に見つかってしまう、そうすると山を抜けるのが一番安全だ、あの頃住んでた所は山道がたくさん枝分かれしていて、みんなは地図なしでどこにつながっているかは大人よりも知ってた。道は山道を抜けると少しボコボコした泥道に変わり、いつの間にか大きな鉄塔の近くにたどりついた。その脇道へ行くとそこは大きく開けた泥の平地ですぐ近くには遠くまで見渡せる崖になっていた。そのすぐ下には道路やゴルフの練習場、ラーメン屋があり、そこからが街に入る最初の入り口になってく。

 もうすぐ車が通れる道が始まる、すべてが真っ赤な工場が右手に見えてくる。後はまっすぐな道で国道の下をくぐり、小さな駅がまた見えてきた。さらにすすむと道は登りになりどんどん進んでいく。自転車はもう喜んだ僕らに合わせてあっという間にゲームセンターにたどりついた。お金は少ししかないからゲームができるのは一回ぐらい、あとはゲームの画面を眺めてワクワクするのが楽しくて、誰かがゲームを始めたら、少し離れた所から覗いては自分がゲームをやった気分になって楽しんだ。

 夏の入道雲が、帰りには何となく綺麗散らばった。少し帰り道は涼しくなって、また飽き飽きした山の向こうに僕たちは自転車で吸い込まれて、あっという間に友達とバイバイをした。今日の事は親には絶対に言わないし、他の友達にも絶対に言わない。

 また、明日から無人駅とたれその森の間を通って学校へ行き、帰りにまた通って家に帰る、たれその森はいつもと何も変わらないで、次の季節に馴染んでいった。どうやったら秋の綺麗に散らばった雲になるかを知っていそうな雰囲気で。

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