るんぺんパリ【RunPenParis】

詩・詩集・ことばをデザイン・アート・写真 るんぺんパリ【RunPenParis】 以前は「Kマーホ」の名で活動(1999-2002)、詩集「トイレの閃き」「テレビジョン」「おしりとサドルが あいますか」「マガサス星人」「コールサック」「眠立体」6冊の詩集を出版して活動休止。 令和元年(2019)に、「るんぺんパリ【RunPenParis】」の名で活動を再開。 三重県伊賀市(旧上野市)出身 静岡県在住

秋の祭りには、すべての紅葉が見られると思う。

 10月となれば、もう上野天神祭でワクワクが止まらなくなってくる。銀座通りは車が通れなくなって、道のど真ん中をどんどん歩ける。その両側には露店が立ち並び、魅力的な射的とか、くじ引き、もちろんチョコバナナにりんご飴、焼きとうもろこしの匂い、焼きそば、リング焼き。あの頃はその日の為に5000円をもらった。ものすごく大金だ。

 幼稚園の頃は、お祭りの時期はお昼で園は終わりだったと思う。鬼行列を見に電車に乗って上野天神さんまでやってきた。だんじりはどこからかやって来るのか、怖くて人の影に隠れてはこっそりしてた。小さな鬼たちが先頭にやってくる、小さいけど鬼の顔はとても怖い、そして偉い鬼がやって来るとこの街は鬼に支配された町だったと思い込むぐらい堂々としていて、周りの人たちが興奮するのが伝わってくる。そしてだんじりが行き、そのあとぐらいだった気がする。とてつもなく怖い鬼が現れたのは、大きな金棒を持ってフラフラしてきた鬼、釣鐘を背負ったひょろつき鬼、どこかで鳴き声も聞こえて来て、この鬼を見る為にこの祭りに来るのが儀式になっていた。

 小学生になると、この鬼は人だと理解して、何も怖くないよと少し退屈になった。くじ引きは同じくらいの小学生がいっぱいで、もう止まらなくくじにはまっている子もいた。ちがう露店ではいいくじが出たらしく、大きなカランカランが響いて、誘惑してくる。僕が一番欲しかったのは、綿菓子だ。たけどとても高くて買えなかった。だからいつも綿菓子をすこし離れた所で眺めてた。買ってもらった子がうらやましくてたまらなかったけど、その内、綿菓子なんてガキだとよくわからない余裕の笑みが出てきた。

 中学生になると、同級生がこの鬼に扮して練り歩くので、知ってる子がいないか気になるようになった。だんじりに乗ってお囃子をする同級生もいた。学校が終わった後の練習が大変だとぼやいてたし、天神祭りの時期は嫌だとぼやいてた。生まれた時から上野の町で育った同級生は、転校してきた僕には分からないような上野天神祭があったようだ。

 高校生になると、もう鬼行列には興味が無くなり、友達とお祭りに行くとか、彼女とお祭りに行くとかで、鬼なんてのはほとんど言葉にも出ないで、それぞれが自由になっていた。くじ引きに群がる小学生を鑑賞して、なんか小さい頃はあんなに魅かれた露店が、お金とそれに見合ってるかは辞書なんていらないくらいすぐにわかっちゃうから、何も買えなくなってたけど、唯一何度も買ったのがリング焼きだった。多分ひとつ200円か300円で、うまさが値段を気にしなくしてくれてた気がする。

 もう何十年と上野天神祭には行っていない。あの祭りだけは何も変わってない気がするし変わって欲しくない。いつか、またあの上野天神祭に足を運ぼうと思う。懐かしい頃にすべて戻ってみたいから。その時は、すべての紅葉が見られると思う。なにも変わらない上野天神祭の紅葉が。

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